大判例

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東京地方裁判所 昭和48年(ワ)5189号 判決

原告

関東商事株式会社

右代表者

青木寿一

原告

有限会社石原産業

右代表者

石原貞治

右両名訴訟代理人

松井邦夫

被告

東京電波株式会社

右代表者

高間繁

右訴訟代理人

入沢武右門

外二名

主文

被告は、原告らに対し、金一五〇万円およびこれに対する昭和四八年八月二日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを五分し、その四を原告らの、その余を被告の各負担とする。

この判決は、原告らが共同して金五〇万円の担保を供するときは、主文第一項にかぎり仮に執行することができる。ただし、被告において、原告らに対し、共同して金一〇〇万円の担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。

事実

第一  当事者双方の求めた裁判

一、原告ら

(一)  被告は、原告らに対し、金七三九万五、〇〇〇円およびこれに対する昭和四八年八月二日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

(三)  仮執行の宣言。

二、被告

(一)  原告らの請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  請求の原因

一、原告関東商事株式会社(以下「関東商事」という。)および原告有限会社石原産業(以下「石原産業」という。)は、いずれも免許を得た宅地建物取引業者であり、不動産売買の仲介を業としている会社である。

二、原告らは、昭和四七年八月一五日頃、被告会社から群馬県佐波郡玉村町大字箱石字稲荷木四三八番地畑一、一六七平方メートルほかの土地面積一万五、〇〇〇坪(以下「本件土地」という。)について、訴外中沢某を通じて、その買受方の幹旋の依頼を受けた。

三、そこで、原告関東商事の重役である訴外野村力雄と原告石原産業の重役である訴外千木良実は、前同日被告会社の経理課長町田雄一を現地に案内したところ、工場用地として適当であるので、買収につき協力してほしいと懇請されるとともに後日被告会社の社長ら関係者らを同道して再度現地を検分する予定であるからその時には案内を頼むと依頼された。

四、同年九月上旬頃、町田課長は、被告会社の社長ほか数人の重役を同行して原告石原産業の事務所に来所して現地の案内を求めたので、野村および千木良(以下「野村ら」という。)は、本件土地を案内したところ、被告会社の社長はこれを買受ける意向を示したが、本件土地は玉村町指定の東部工業団地の地域内に含まれていたため、買収手続は財団法人玉村町開発協会(以下「開発協会」という。)を通じて行うのが得策であると考え、同日被告会社の関係者を玉村町役場に案内し、町長や開発協会の関係者らに引き合わせるなどして売買の成立をはかるべく努力した結果、昭和四七年一一月二〇日被告会社と本件土地の所有者との間において、本件土地を二億四、四五〇円で売買する旨の契約が成立した。

五、ところで、本件の場合原告らの受くべき報酬額については当事者間に明示的な約定がなかつたから、建設省告示所定の報酬額により定めるのが相当であるところ、取引金額が二億四、四五〇円であるから、これにより原告らが共同して受けるべき報酬額を算出すると、その額は金七三九万五、〇〇〇円となる。

六、よつて、原告らは、被告に対し、右報酬金七三九万五、〇〇〇円およびこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和四八年八月二日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。〈以下略〉

理由

一まず、本件土地売買契約が原告らが主張するとおりの経緯で成立し、これが原告らの仲介によるものかどうかについて一括して検討する。

原告石原産業が不動産売買の仲介を業としている会社であること、被告会社の町田課長が原告石原産業の千木良から昭和四七年八月一五日頃土地を案内されたこと、昭和四七年一一月二〇日被告会社と本件土地の所有者との間において、本件土地を売買する旨の契約が成立したことは当事者間に争いなく、〈証拠〉ならびに弁論の全趣旨を総合し、前記当事者間に争いない事実に鑑みると、次の事実を認めることができる。

(一)  原告関東商事、同石原産業は、いずれも免許を得て宅地建物取引業を営んでいるものであるが、昭和四七年七月頃千木良は、藤岡市に在住する訴外中沢を介して、被告会社から被告会社が群馬県内に約一万五、〇〇〇ないし二万坪の工場用地を約三億円程度で買収すべく物色中であるので、適当な候補地を探知・調査して欲しい旨を依頼された。

そこで、千木良は、不動産仲介業務で日頃協力を受けている野村にこの話を持ち掛け協力を求めたところ、同人がこれに応じたので、原告両会社が協力して被告会社の工場用地を探知・調査することとした。

(二)  野村らは、かねてから群馬県佐波郡玉村町の東部地区に工業団地を造成し分譲する計画のあることを聞知していたので、早速同工業団地の一区画の買収を斡旋すべく、二、三の候補地を選定したうえ、被告会社に連絡したところ、同月下旬頃、町田課長が玉村町に出向いて来たので、野村らは、町田課長に会い、同人に対し、本件土地を含む、二、三の候補地の立地条件、地価、面積、地況、買収可能の見込み等の概要を説明したうえ、自動車で本件土地を含む二、三の候補地を案内したところ、町田課長は、玉村町大字箱石地区一帯に広がる桑畠を主とする本件土地附近が適当であるから買収したいとの意向を示したが、町田課長の一存では決定できないため、後日被告会社の社長ら重役を同伴して現地を検分することにするが、その際には、現地を案内して欲しいと依頼された。

(三)  同年八月一五日、被告会社の社長ら一行が玉村町に出向いて来たので、野村らは、玉村町の市街で一行と落ち合い、被告会社の社長一行らとともに二台の乗用車に分乗し、当時、所有者や正確な番地の不明だつた本件土地を案内したところ、被告会社の社長が本件土地が適当であるから是非買収したいとの意向を示し、その場で野村らに買収の仲介を依頼するとともに箱石には旧友で町の有力者である訴外木暮一太郎もいるから同人にも会つて、本件土地の買収に協力するよう依頼してほしいと懇請し、所用のため現地検分の場所から帰社したので、その足で直ちに町田課長とともに箱石の木暮方に赴き、同人に面会を求めたが、不在であつたため、家人に対し来意を告げただけで辞去した。

(四)  しかしながら、野村らとしては、玉村町の東部工業団地の造成・分譲等は玉村町の総合開発計画に基づく都市開発整備事業の一環であり、その工業用地の確保、造成、分譲および斡旋が開発協会の主管事項であつたため、被告会社の工場用地の買収をスムースに進めるためには開発協会の協力を得ることが是非とも必要であると考えたので、木暮方を訪ねた帰途、町田課長を伴つて玉村町役場に赴き、玉村町や開発協会の関係者らと面談し、関係者から、東部工業団地の買収状況、被告会社の希望する本件土地の買収の見込み、予定道路の位置等について説明を求め、他方被告会社の事業内容等を説明したうえ、被告会社の本件土地の買収について協力してほしい旨懇請した。

(五)  ところが、その後開発協会は、野村らと何ら連絡のないまま、被告会社と直接連絡をとつて、本件土地の地権者を登記簿等によつて確認したうえ、地権者を一堂に集めて説明会を催し、被告会社の事業概要、買収目的等を説明し、さらに地権者らの代表者と数回面談して売買条件について協議するなど売主と買主の交渉の仲介を続け、折衝を重ねた結果、同年一一月二〇日被告会社が本件土地をその所有者から最終的に総額二億五、〇〇〇万円で買受ける旨の契約が成立した。なお、被告会社は昭和五〇年二月頃までに代金をすべて支払つたが、農地転用の許可申請に対する許可がないためいまだ所有権移転登記を経由していない。〈証拠判断略〉

以上認定の事実を総合して考えると、原告関東商事の野村と原告石原産業の千木良は、被告会社の依頼を受けた後自己の入手した情報、手腕によつて買収予定の候補地を探知・調査するとともに被告会社が適当とする物件の現地を案内し、開発協会の関係者らに被告会社の町田課長を引き合わせるなどして本件土地の売買に関与したものであり、しかもこれが売買が成立したのは、野村らの媒介が端緒になつていることは否定し難いところであるから、右の媒介行為と売買契約の成立との間には因果関係があるものと判断するのが相当である。

ところで、不動産の購入を希望する者が取引業者に仲介を依頼する所以は、まず依頼者が業者の持つ情報、知識等を利用して適当な物件を探知・調査するとともに業者の労力、手腕を利用して代金その他の契約条件を有利に導びくべく斡旋を受けて契約を締結することにあるというべきところ、まずその前提となるべき依頼者の希望する物件の探知・調査、関係者への引き合せも具体的な契約条件の折衝契約の締結自体の媒介に劣らぬ重要性をもつものと考えられる。したがつて、被告会社が宅地建物取引業者である原告両会社から自己の求める物件の紹介を受け、現地を案内され、関係者らに紹介されるなどして取引成立の機縁、端縮を与えられた以上、じ後の具体的な権利者の確認、売買交渉段階において斡旋、仲介を受け得なかつたとしても、原告らの右の一連の行為がこの契約成立に相当に寄与したものとして、商法五一二条、民法六四八条第三項の法理により、原告らに対し、仲介による報酬を支払うべき義務を負うのが相当である。

二そこで、原告らの受くべき報酬額についてみるに、この点当事者間に明示的な約定のあつたことについては何ら主張・立証もないところであり、またそれかといつて、建設省告示所定の最高額を業者が請求しうる法的根拠もないから、所詮、建設省告示所定の報酬率で算出した金額の範囲内で原告らの本件媒介行為の態様、程度、売買契約に寄与した度合、取引額その他諸般の事情を斟酌して定めるのが相当である。しかるところ、野村らは、本件物件の売買の仲介については、被告会社に対し、本件土地を紹介し、実地について所在場所を案内し、関係者に引き合せただけで、それ以上格別の努力もしなかつたことはすでに認定したとおりであるから、ことさら野村らが本件売買交渉から手を引いたものではないことを考慮に入れても、前述のような野村らが本件物件売買の仲介のためになした行為と開発協会がなした行為とを比較し、それぞれの行為の態様、程度、寄与度、取引額等諸般の事情を斟酌して考えるならば、原告両会社が共同して被告会社に請求しうる報酬額は、金一五〇万円をもつて相当と判断する。

したがつて、被告会社は、原告らに対し、右報酬金一五〇万円およびこれに対する本訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四八年八月二日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

三よつて、原告らの本訴請求は、右判示の限度において理由があるからこれを正当として認容するが、その余は理由がないからこれを失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行および同免脱の宣言について同法第一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。 (塩崎勤)

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